相続手続をスピーディーに。戸籍謄本の束がいらなくなる法定相続情報証明制度
相続手続では、「預貯金の手続は金融機関で」「不動産の名義変更は法務局で」「有価証券の名義変更は証券会社で」といった具合に、それぞれの窓口で手続きを行う必要があります。
それらの手続の中で、ほぼ必ず提出することになる書類が戸籍謄本です。被相続人が亡くなったことや法定相続人が誰になるのかを証明するために、場合によっては何十通もの戸籍謄本の束を提出する必要があります。
複数の窓口での手続を同時に行おうとすると、戸籍謄本の束も窓口の数だけ必要になってきます。逆に、一つの戸籍謄本の束だけで手続を行おうとすると、1か所の窓口に戸籍謄本の束を提出してから返却されるまで、他の窓口での手続きができないことになります。
そのような相続手続における負担を軽減することを目的とした制度が、今回ご紹介する法定相続情報証明制度です。
法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度は、相続人が法務局(登記所)に「法定相続情報一覧図」と戸籍謄本等必要書類を提出し、法務局がその内容を確認した上で「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」を交付するというものです。
この「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」が、様々な相続手続の窓口で提出を求められる戸籍謄本の束の代わりになります。
「法定相続情報一覧図」は、被相続人や法定相続人の氏名や住所、生年月日や死亡年月日等を記載したもので、下の図のようなものを作成します。
このようにして作成した「法定相続情報一覧図」に、法務局の認証文が付与されて、「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」として相続手続に利用することができることになります。
法定相続情報証明制度の手続の流れ
- 提出書類の収集・作成
- 法定相続情報証明制度の必要書類は以下のとおりです。
・申出書
・法定相続情報一覧図
・被相続人の戸籍謄本・除籍謄本
・被相続人の住民票除票または戸籍の附票
・相続人の戸籍謄本・除籍謄本
・申出人の住所氏名を確認することができる公的書類
・(法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合)相続人の住民票
・(委任による代理人が申出の手続をする場合)委任状
・(親族が代理する場合)申出人と代理人が親族関係にあることが分かる戸籍謄本
・(資格者代理人が代理する場合)資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等
- 法務局へ提出(申出)
- 提出書類が揃ったら、法務局へ提出して申出をします。
申出をすることができるのは、被相続人(亡くなった人)の相続人です。
申出の代理人になることができるのは、以下のとおりです。
・法定代理人
・民法上の親族
・資格者代理人(弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士)
申出することのできる法務局(登記所)は、以下のいずれかの所在地の不動産登記を管轄する法務局(登記所)です。
・被相続人の本籍地
・被相続人の最後の住所地
・申出人の住所地
・被相続人名義の不動産の所在地
申出は、法務局(登記所)の窓口へ行くほかに、郵送でも可能です。
- 法務局による確認・保管・交付
- 法務局の登記官が提出された書類の内容を確認し、書類の不足や誤りが無ければ、法定相続情報一覧図を法務局において保管します(保管期間5年)。
その上で、請求された通数分の「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」を交付します。
※「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」は、相続手続に必要な分だけ複数通交付可能です。
※「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」の交付には、手数料はかかりません。
- 相続手続へ利用
- 「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」を利用して、相続登記や金融機関での預貯金の払戻し等の相続手続を行います。
相続手続のために「認証文付き法定相続情報一覧図の写し」がさらに必要な場合には、法定相続情報一覧図の保管期間中(5年間)は、再交付してもらうことができます。ただし、再交付を申出することができるのは、当初の申出人に限られます。
まとめ
今回は、法定相続情報証明制度について説明しました。
これまでの相続手続には、ケースによっては大量の戸籍の束を提出する必要があり、提出する相続人側もそれを見る窓口側もどちらにとっても少なからず負担がありました。
それが、これまでの戸籍の束を1枚の一覧図に代えることによって、相続手続をよりスムーズに進めることができるようになりました。
複数の金融機関に預貯金があるとか他府県にまたがって不動産がある等の事情から相続手続をする窓口が数多くある方にとっては、非常に便利な制度といえるでしょう。
相続手続を行う際に利用できる選択肢の一つとして、覚えておかれてはどうでしょうか。