遺産分割のとき、不動産の価値はどうやって決める?不動産の価格を決める方法について

遺産分割をするとき、預貯金や現金は、そのままの金額を相続人で分けることができますが、不動産はそういうわけにはいきません。

たとえば、不動産を相続人の一人が相続して、代わりにほかの相続人に対してそれぞれの相続分に見合った金銭を支払う、という形で遺産分割をするとします。

そうなると、不動産の価値=価格がいくらになるのかを決める必要があります。

不動産の価格は、預貯金のように金額が明示されているわけではないので、遺産分割においては、相続人間で話し合いをした上で決めることになります。

ただ、不動産の価格を決める方法を知らないと、いざ遺産分割をするとなったときにつまずいてしまうことになります。

「不動産は私が相続して、その代わりにほかの人にはお金を支払うとして…あれ、どのくらいの金額をあげたらいいんだろう」

このように、遺産分割において、不動産の価格を決める必要がある場合に、どのようにして決めたらよいのでしょうか。

今回は、遺産分割において不動産の価格を決める方法について解説します。

この記事のポイント

  • 不動産の価格を決める方法の代表的な例として、不動産鑑定士の鑑定や不動産業者による査定のほか、固定資産税評価額・相続税評価額(路線価)・地価公示価格といった指標を参考にする方法がある。
  • 遺産分割において、不動産の価格を決める方法について決まりはないので、相続人間で納得のいく方法を選択することになる。

不動産の価格が問題となるケース

まず、遺産分割において、不動産の価格が問題となるは、どのような場合でしょうか。

遺産分割をするときに不動産の価値が重要となるのは、「代償分割」という分割の方法を採用する場合です。

「代償分割」とは、一部の相続人が不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して不動産の価格に相当する金額(代償金)を支払う方法です。

この場合、代償金の金額は、不動産の価格によって変わることになりますから、相続人にとって不動産の価格の計算は非常に重要となります。

一方で、不動産を相続人全員で共有する場合や、不動産を売却した上で売却金を相続人で分割する「換価分割」の方法を採用する場合は、遺産分割にあたって不動産の価格が問題となることはほとんどありません。

不動産の価格を決める方法

では、具体的に不動産の価格を計算するには、どのようにしたらよいのでしょうか。

不動産の価格を決める方法としては、いろいろな方法や指標があります。

それぞれの方法には、長所も短所もありますので、それぞれの事情に応じて相続人全員が納得できるような方法を選ぶことになります。

不動産鑑定士による鑑定

不動産の鑑定・評価を業とする不動産鑑定士に鑑定してもらう方法です。専門家による客観的かつ公正な価格の算定が行われますので、一番信用できる方法です。その一方で、鑑定にはある程度の期間を要しますし、また鑑定費用として数十万円程度はかかってしまいます。

不動産業者による査定

地元の不動産業者に簡易査定してもらう方法です。日ごろから不動産の取引に携わっているため、より実態に即した価格の査定を期待できます。査定費用もそれほど高額ではなく、無料で査定してくれる場合もあります。ただし、業者の独自の判断が入るため、査定額にばらつきが生じることがあります。

固定資産税評価額

各市町村が不動産ごとに算定する固定資産税評価額を指標とする方法です。

固定資産税評価額は、各市町村が固定資産税評価基準により不動産ごとに算定する固定資産税の基準となる評価額のことです。

原則として3年に1度見直され、公示価格の70%の水準になるように設定されていると言われています。

固定資産税評価額は、各市町村から届く固定資産税の通知書を確認すればすぐ分かるので、調査や査定をする必要もなく、簡単に利用できる点がメリットといえます。

相続税評価額(路線価)

相続税を計算するときに利用する相続税評価額(路線価)を指標とする方法です。

相続税評価額(路線価)は、相続税を賦課するために全国共通の基準に基づいて算出された道路ごとの評価額のことです。

路線価は毎年見直しされ、7月頃に公表されています。

路線価は、国税庁のウェブサイトで誰でも確認することができるので、利用しやすい点がメリットです。

なお、相続税評価額においては、土地は路線価に基づいて計算し、建物は固定資産税評価額を利用することになります。

地価公示価格

地価公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格のことです。

客観的かつ公平性の高い指標ですが、公示されているのが一部の標準地に限られるため、実際の遺産分割の対象となる不動産にどのように当てはめるかについて判断が必要になります。

固定資産税評価額や相続税評価額、地価公示価格を利用する方法は、一定の指標を基に計算をすればいいだけなので、自分たちで簡単にできるうえ、費用がかからないというのが大きなメリットといえます。

ただ一方で、どれも画一的な基準であるため、それぞれの不動産の事情を反映することが難しいという点がデメリットといえます。

どの方法を使って決めたらよいのか

ここまで見てきたように、不動産の価格の決め方にはいろいろな方法があります。

ただ、遺産分割においては、不動産の価格について、「この方法や指標を使うべきである」といった決まりはありません。

そのため、それぞれのケースによって、どの基準を使うのがよいのかは変わってきます。

遺産分割は、まずは話し合い(遺産分割協議)からスタートすることになりますので、不動産の価格の決め方についても、話し合いの中で相続人の全員が納得する方法を採用することになるでしょう。

もしも遺産分割が話し合いで決まらないということになった場合は、遺産分割調停・審判で決定することになります。

この場合でも、まずは各相続人の主張に基づいて合意形成が図られますが、それでも不動産の価格について合意できない場合には、最終的に不動産鑑定士による鑑定が採用されることになります。

おわりに

今回ご紹介したように、不動産の価格を決める方法には、さまざまな選択肢があります。

どの方法にも一長一短があり、人によって適切だと思う方法は違うでしょう。

しかし、遺産分割においてまず一番に目指したいことは、相続人全員が納得した上で円満に遺産分割ができることです。

遺産分割の話し合いの場において、不動産の価格に絶対的な正解はありませんので、個人の見解で一方的に決めつけたり押し付けたりするのはよくありません。

相続人全員が納得できるような方法を、話し合いの中で模索していくことが大切となるでしょう。