相続トラブルにならないための「遺贈」の基本的な知識とポイント
自分が亡くなった後に、自分の財産を譲ることのできる相手は、法律上の相続人に限られるわけではありません。
日ごろからお世話になった親族や友人、自分の財産を有効活用してもらいたい法人や慈善団体など、法律上の相続人以外にも財産を譲りたいと考える方もいると思います。
そのようなときに、遺言を活用して特定の個人や法人に自分の財産を譲ることを「遺贈」といいます。
今回は、この「遺贈」について解説していきたいと思います。
この記事のポイント
- 「遺贈」とは、遺言に基づいて、特定の個人や法人・団体などに対して遺産の全部もしくは一部を譲ることをいう。
- 遺贈をする対象である「受遺者」は、法律上の相続人以外でもよい。
- 遺贈には、遺贈する財産を特定せずに割合で指定する「包括遺贈」と遺贈する財産を特定して行う「特定遺贈」がある。
- 遺贈は、相続税の対象となる。また、法律上の相続人以外が不動産の遺贈を受けた場合は不動産取得税が課せられる。
- 包括遺贈を放棄する場合は、相続放棄の手続と同様に、遺贈があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ放棄の申述をする必要がある。
- 遺贈を検討する際は、自分の死後に相続人と受遺者の間で相続トラブルが発生しないよう十分な配慮が必要となる。
遺贈とは
遺贈とは、遺言に基づいて、自分の死後に特定の対象に対してその遺産の一部または全部を譲ることをいいます。
遺贈する相手は、法律上の相続人以外でも構いません。特定の個人はもちろんのこと、病院や施設、会社、地方自治体、慈善団体などといった法人や団体などもあてはまります。
「相続」との大きな違いは、「相続」の場合は財産を譲る対象が法律上の相続人に限られるのに対して、「遺贈」の場合は法律上の相続人を含めその対象に制限がないことです。
遺贈をする人を「遺言者」、遺贈を受け取る人を「受遺者」といいます。
遺贈は、遺言によって行われるので、受遺者に対して事前の了解や承諾を得る必要はありません。
遺言者が亡くなった後に、遺言を確認して初めて遺贈の事実を知る受遺者は、その時点でその遺贈を受けるかどうか決めればよいことになります。
包括遺贈と特定遺贈
さて、この「遺贈」には、その遺贈の仕方によって「包括遺贈」と「特定遺贈」という2種類があります。
同じ遺贈でも、その内容や相続人に対する影響は大きく異なりますので、遺贈を検討する際にはよく理解しておく必要があります。
包括遺贈
「包括遺贈」とは、遺産の内容を特定せずに全部あるいは遺産のうちの何割というように割合で遺贈をすることです。
例:Aさんに遺産の2分の1を遺贈する。
このように包括遺贈は割合で遺贈を受けることになるので、遺贈される財産はプラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も含まれることになります。
また、具体的にどの財産を受け取るのかを決めるために、他の相続人と遺産分割協議を行う必要があります。
そのため、包括遺贈は、場合によっては受遺者に大きな負担を強いることになってしまう可能性があります。
特定遺贈
「特定遺贈」とは、遺産のうちの特定のものを指定して遺贈をすることです。
例:AさんにB市C町1番地の土地建物を遺贈する。
特定遺贈では、遺贈する財産が特定されていますので、包括遺贈のように想定していなかった負債を引き継ぐことになったり、遺産分割協議に参加する必要もありません。
ただし、遺言で記載されていた財産が遺贈を受けるまでに消滅してしまった場合には、特定遺贈は無効となってしまいます。
遺贈の場合の税金は?
遺贈には、どのような税金がかかるのでしょうか。
相続税
遺贈は、相続と同じように死亡を起因として財産を受け取ることになりますので、相続税の対象となります。
ただし、相続と異なる点として、法律上の相続人以外の人が遺贈を受けた場合には、通常の相続税の2割増しの税金がかかることになります。
なお、法人が遺贈を受けた場合には、相続税ではなく法人税の対象となります。
不動産取得税
法律上の相続人が不動産を相続したり遺贈を受けても、不動産取得税はかかりません。
これに対し、法律上の相続人以外の人が不動産の遺贈を受けた場合には、不動産取得税がかかることになります。
遺贈をする方法
遺贈をする場合は、遺言を作成することになります。
遺言書の中で、「誰に・何を」遺贈するのかを明記する必要があります。
ここで、遺贈する財産の記載の仕方には注意が必要です。
「全ての財産」、「遺産の2分の1」という記載にすれば包括遺贈になりますし、「A銀行の預金」「B町1番地の土地」という記載にすれば特定遺贈となります。
すでに解説したとおり、同じ遺贈でも包括遺贈と特定遺贈ではその取扱いが大きく異なります。想定外の結果にならないよう、財産の記載には注意をするようにしてください。
遺言者が亡くなった後、実際に財産の遺贈が行われることになりますが、その手続きは遺言者の共同相続人全員と受遺者との間で行うことになります。
相続人が遺贈の手続をきちんと行ってくれるか心配な場合は、遺言の中で「遺言執行者」を指定しておくとよいでしょう。
遺言執行者を指定しておけば、遺贈の手続は遺言執行者と受遺者のみの間で行うことになりますので、手続をスムーズに進めることができます。
遺贈を放棄する場合は
いくら財産をあげると言われても、中には遺贈を拒否したい人もいるでしょう。
このような場合には、受遺者は遺贈の放棄をすることができます。
遺贈の放棄は、包括遺贈と特定遺贈ではその内容が異なります。
包括遺贈の場合
包括遺贈を放棄する場合は、包括遺贈があったことを知ったときから3カ月以内に放棄の手続をしなければなりません。
3カ月を経過してしまった場合は、遺贈を受けることを承認したものとみなされます。
放棄の手続は、遺言者の住所地の管轄の家庭裁判所に申述書と必要書類を提出して行います。
このように、包括遺贈は、相続人と同じ権利や義務を持つことになるので、相続放棄とほとんど同じ手続きをとることになります。
特定遺贈の場合
特定遺贈を放棄する場合は、遺言執行者や相続人に対して放棄する旨の意思表示を行うだけでよいです。
通常は、内容証明郵便等で相手方に遺贈を放棄する旨の通知を送ります。
特にいつまでにしなければならないといった期限もありません。
ただし、遺言執行者や相続人は期間を定めて遺贈を承認するか放棄するか催告をすることができ、期間内に回答をしなかった場合には、受遺者は遺贈を承認したものとみなされます。
まとめ
遺贈は、自分の死後に、法律上の相続人に限られずに、本当に自分の財産を譲りたい人に対して財産を分けることのできる方法です。
しかし、一方で、遺贈の内容によっては受遺者に対して大きな負担をかけることになる可能性もあります。
日ごろからお世話になっていた人や団体に感謝の気持ちで遺贈をしても、その内容が過分な遺贈や配慮を欠いた遺贈であった場合には、相続人の不満を招いたり、遺留分侵害額請求に発展するなど、相続トラブルに巻き込んでしまう恐れもあります。
遺贈を検討する際には、自分が亡くなった後の相続人や受遺者のことも考えながら、できる限りトラブルが発生しないような遺言を遺すことを心がけましょう。