【令和5年4月27日からスタート】相続土地国庫帰属制度の具体的な要件について

相続した土地を国に引き取ってもらう新しい制度「相続土地国庫帰属制度」が、令和5年4月27日からスタートします。

来年からの制度開始に向けて、その具体的な内容についても徐々に明らかになりつつあります。

8月5日には相続土地国庫帰属制度に関する政令案が公表され、パブリックコメントによる意見募集が行われています。

今回は、相続土地国庫帰属制度について、法務省より公表された政令案をもとに、新たに明らかになった制度の具体的内容について解説していきます。

この記事のポイント

  • 8月5日公表の政令案によって、相続土地国庫帰属制度の「土地の要件」と「負担金の額」について具体的内容が明示された。
  • 土地の要件については、国庫に帰属することができない土地について、より具体的な内容が明示された。
  • 負担金の額は、一定の条件に当てはまる宅地・田畑、全ての森林については、算定表に基づいて土地の面積に応じて計算する。それ以外の土地については、一律20万円となる。
  • 隣接する2筆以上の土地については、1つの土地とみなして負担金の額を計算することができる。

相続土地国庫帰属制度の概要

まずは、すでに法律で定められている「相続土地国庫帰属制度」の概要について、おさらいしておきましょう。

相続土地国庫帰属制度の概要

申請することができる人

相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人。

相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、他の共有者全員と共同して申請を行うことができる(土地の共有持分を相続等以外の原因により取得した共有者がいる場合であっても可能)。

申請先

国庫に帰属させる土地を管轄する法務局

帰属の承認ができない土地

(1)申請を承認できない土地(却下事由)

・建物がある土地

・担保権や使用収益権が設定されている土地

・他人の利用が予定されている土地

・土壌汚染されている土地

・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

(2)承認を受けることができない土地(不承認事由)

・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地

・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

審査手数料・負担金

国庫帰属の承認申請をする際に、申請書とあわせて審査手数料を納付する必要がある。

また、国庫帰属の承認があった場合は、30日以内に負担金を納付する必要がある。

手続の大まかな流れ

国庫帰属の承認申請
承認申請書を提出し、審査手数料を納付します。
法務局担当官による書面審査・実地調査
法務局の担当官により、提出された書面の審査・実地調査が行われます。
審査の結果、申請に問題がある場合や国庫に帰属することが認められない場合は、却下あるいは不承認となります。
法務大臣による承認
申請された土地が、法律で定める「帰属の承認ができない土地」に該当しないと認められた場合は、法務大臣はその土地を国庫へ帰属することを承認することになります。
国庫への帰属が承認されると、申請者に対して承認通知と負担金の通知がなされます。
負担金の納付
申請者は、負担金額の通知を受けてから30日以内に負担金の納付を行います。
国庫帰属
申請者が負担金を納付したときをもって、土地の所有権が国庫に帰属することになります。

それでは、今回の政令案で公表された「二つの具体的内容」について以下で解説していきます。

その二つとは、「土地の要件」と「負担金の額」についてです。

国庫に帰属させることができない土地について

今回の政令案では、土地の要件について、より具体的な内容が明らかになりました。

すでに法律で定められている「国庫に帰属することができない土地」の要件について、より具体的な内容が明示されました。

政令案に基づく土地の要件

(1)申請を承認できない土地のうち、「他人による使用が予定される土地」として、以下の土地を定める。

・現に通路の用に供されている土地

・墓地内の土地

・境内地

・現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地

(2)承認を受けることができない土地のうち、「一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地」の崖の基準について、勾配が30度以上であり、かつ、その高さが5メートル以上のものとする。

(3)承認を受けることができない土地のうち、「隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地」として、以下のとおりとする。

・隣接所有者等によって通行が現に妨害されている土地

・所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地

(4)承認を受けることができない土地のうち、「通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地」として、以下のとおりとする。

・土砂崩落、地割れなどに起因する災害により、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命、身体又は財産に対する被害の発生防止のため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(軽微なものを除く)

・鳥獣や病害虫などにより、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命もしくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがある土地

・適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備を要する森林(軽微なものを除く)

・国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地

・国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地

負担金の金額について

今回の政令案では、申請者が国に納付する負担金の額について、具体的な内容が明らかになりました。

一定の条件に当てはまる宅地や田畑と全ての森林については面積に応じて負担金を計算することになり、それ以外の土地は一律20万円となるようです。

政令案に基づく負担金の額

宅地:一部の市街地の宅地は、面積に応じて算定する。それ以外の宅地は、一律20万円。

田・畑:一部の市街地、農用地区域等の田畑は、面積に応じて算定する。それ以外の田畑は、一律20万円。

森林:面積に応じて算定する。

その他の土地(雑種地・原野等):一律20万円。

面積に応じて算定する対象となる土地の内容・それぞれの負担金の算定方法については、以下のとおりとなります。

それぞれの土地に対応する算定表に基づいて計算することになるようです。

政令案に基づく負担金算定表

(1)宅地のうち、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の土地

面積部分負担金額
50㎡以下土地の面積に4,070(円/㎡)を乗じ、208,000円を加えた額
50㎡超100㎡以下土地の面積に2,720(円/㎡)を乗じ、276,000円を加えた額
100㎡超200㎡以下土地の面積に2,450(円/㎡)を乗じ、303,000円を加えた額
200㎡超400㎡以下土地の面積に2,250(円/㎡)を乗じ、343,000円を加えた額
400㎡超800㎡以下土地の面積に2,110(円/㎡)を乗じ、399,000円を加えた額
800㎡超土地の面積に2,010(円/㎡)を乗じ、479,000円を加えた額

(2)主に農用地として利用されている土地のうち、次のいずれかに掲げるもの

ア 土地計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地

イ 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地

ウ 土地改良事業等(土地改良事業又はこれに準ずる事業であって、農地法施行規則第40条第1号及び第2号イ若しくはロに規定する事業)の施行区域内の農地

面積区分負担金額
250㎡以下土地の面積に1,210(円/㎡)を乗じ、208,000円を加えた額
250㎡超500㎡以下土地の面積に850(円/㎡)を乗じ、298,000円を加えた額
500㎡超1,000㎡以下土地の面積に810(円/㎡)を乗じ、318,000円を加えた額
1,000㎡超2,000㎡以下土地の面積に740(円/㎡)を乗じ、388,000円を加えた額
2,000㎡超4,000㎡以下土地の面積に650(円/㎡)を乗じ、568,000円を加えた額
4,000㎡超土地の面積に640(円/㎡)を乗じ、608,000円を加えた額

(3)主に森林として利用されている土地

面積区分負担金額
750㎡以下土地の面積に59(円/㎡)を乗じ、210,000円を加えた額
750㎡超1,500㎡以下土地の面積に24(円/㎡)を乗じ、237,000円を加えた額
1,500㎡超3,000㎡以下土地の面積に17(円/㎡)を乗じ、248,000円を加えた額
3,000㎡超6,000㎡以下土地の面積に12(円/㎡)を乗じ、263,000円を加えた額
6,000㎡超12,000㎡以下土地の面積に8(円/㎡)を乗じ、287,000円を加えた額
12,000㎡超土地の面積に6(円/㎡)を乗じ、311,000円を加えた額

また、申請人の負担を軽減するために、隣接する2筆以上の土地については、1つの土地とみなして負担金の額を算定することが認められることとなりました。

いくつもの土地をまとめて国庫に帰属させたい人にとって、一つ一つの土地について負担金を計算することになると、過大な負担金になることが懸念されていましたが、今回のこの措置によって、納付すべき負担金の額が軽減され、より制度の利用がしやすくなったといえます。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回公表された政令案では、土地の要件と負担金について具体的な内容が明らかになりました。

特に、負担金の額については、これまで「10年分の土地管理費に相当する金額」としか分からなかったものが、より具体的な金額として公表されました。

相続土地国庫帰属制度に関心のあった方も、一番気になっていたのは「コストがどのくらいかかるのか」という点だったと思うので、今回の政令案の内容で、ある程度コストのイメージができたのではないでしょうか。

もちろん、今回ご紹介した制度の具体的な内容は、あくまで「政令案」として公表されたものであり、現段階では確定した内容ではありませんので、その点だけはご注意ください。

制度のスタートはまだもう少し先ではありますが、制度の利用を検討しておられる方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。